文様つれづれ - その2 -

Japanese traditional patterns episodeⅡ

獅子狩文錦

※​スタッフが描いたイメージ画

私には忘れられない文様があります。
それは奈良・法隆寺に伝わる国宝「四騎獅子狩文錦(しきししかりもんきん)」です。
花樹を中心として上下左右に翼馬にまたがり振り返りながら獅子を射る4人の男性が描かれているデザインの絹織物で、7世紀前半に唐で製作され、日本にもたらされたものです。男性の風貌からササン朝ペルシアの影響を強く受けているのがわかります。


私がはじめて「獅子狩文錦」に出会ったのは中学生の時でした。
国語の教科書に法隆寺伝来の国宝「四騎獅子狩文錦」の復元に関する文章があったのです。歴史が好きだったこと、古代のものを現代に蘇らせるというロマン、獅子狩りという未知のシチュエーション、そして何より、“シシカリモンキン”というどこか呪文にも似た不思議な響きに興味を掻き立てられました。
そんな中、「獅子狩文錦」が私の心に深く刻まれることとなる出来事が起こりました。
それは同じ学年のある男子生徒が、思いを寄せる女子生徒にラブレターを出したことに端を発します。
その女子生徒はとても足がとても速く、颯爽としていました。
男子生徒は女子生徒の素晴らしさを称える意味で「君の走る姿は獅子狩文錦のように美しい」とラブレター書いたのです。
おそらく男子生徒は熱心に国語の授業に取り組み、復元された「獅子狩文錦」が鮮やかで美しいことを知り、自分が知り得る最大限の賛辞としてこの言葉を贈ったのだと思います。
ただ、残念ながらそれは功を奏さなかったようですが…
この“獅子狩文錦ラブレター事件”の噂は瞬く間に学年全体を席巻し、ある者は驚き、ある者は笑いと反応は様々でしたが、私は男子生徒のセンス、情熱、行動力に心の中で惜しみない拍手を送り、健闘を称えたことを覚えています。

古代への憧れ、言葉の響き、そしてこのラブレター事件が相まって「獅子狩文錦」は私の記憶に深く刻まれたのでした。
あれから数十年経っていますが、折に触れて思い出し、きものなどで獅子狩文様を見かけるとつい親しみを感じてしまいます。

復元された「四騎獅子狩文錦」は東京国立博物館が所蔵しているということなので、いつか展示される折には古代ロマンと男子生徒の恋心に想いを馳せながら見たいと思っています。

<参考URL>

東京国立博物館・獅子狩文錦模造画像

https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/E0069923