心待ちにするもの - 秋 -

What is to catch my heart  - autumn -

川辺の紅葉

芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋。

秋をあらわす言葉はさまざまありますが、やはり「食欲の秋」は外せません。

田畑の実り、山海の恵みの数々。

つややかな新米、みずみずしい果物、かぐわしい松茸・・・

数多ある中で、ひそかに心待ちにしているのが秋から冬にかけて脂の乗る“秋鯖”。

そして思うのです、「ああ、京都に行きたい」と。​

 

紅葉ではなく、なぜ“秋鯖”で京都なのか。

それはひとえに「秋鯖の時期に、かの店で鯖姿寿司を食したい」という一念のみです。

その店は祇園にある京寿司の名店で、そこの名物が鯖姿寿司。それはそれは美味なる逸品です。

鯖姿寿司をいただく楽しみは、店に着く前から始まっています。

その店は、ともすると気づかず通り過ぎてしまうほどつつましい佇まいのため、小路に入ったら注意深く見ながら進む必要があります。それゆえに見つけた時はなんとも嬉しい気持ちになります。

注文をし終えたら、清楚なしつらえの店内を見ながら運ばれてくるその時を静かに待ちます。鯖姿寿司が目の前に置かれると感動の再会に胸が熱くなります。酢と昆布の香りで期待が高まったところで、おもむろに昆布を外すと美しく光る鯖が現れます。しばしその姿に見とれます。さあ、いよいよ口の中へ。まずは歯に肉厚の鯖の身の弾力を感じます。噛むたびに旨味が口の中に広がり、鼻から抜ける香りに鯖とお米の風味を感じます。飲み込む時の幸福感、続く余韻・・・そしてお皿にまだ数切れあるのを目にした時の喜び。

この感動を味わうため、京都に行った際は必ず、また京都を通過する地域に行く時も京都で途中下車して立ち寄ります。どうしてもお店が開く時間に行けない時は、予約をして早朝に受け取りに行ったこともあります。

“秋鯖”の季節は、この情熱にさらに拍車がかかってしまうのです。

誤解のないように申し添えますが、鯖姿寿司はどの季節、いつ食べても間違いなく美味しいです。また、真鯖は回遊魚のため産地によって旬が異なるので秋だけが特別なわけではないと思います。

でもやっぱり、秋は京都に行きたい!

コロナ禍の今、京都に気軽に行けない状況に気落ちしていたところ、10月から都内の百貨店で鯖姿寿司の販売が再開されるという朗報が入ってきました。

かの店は元々、祇園のお座敷にお寿司を出していて、その際は古伊万里や趣向を凝らした器で供していたそうです。自宅で食べる時はそれにならって、お気に入りの器に盛りつけよてみるのもまた一興です。色絵の鉢にしょうか、花三島の器にしようか、あるいはミントンのプレートにしようかと、あれこれ考えるている時からすでに食べる楽しみは始まっているのかもしれません。